全国常連コーチによる高校サッカー戦術

高校サッカーまたはそれ以下の年代で使える戦術、原則について深堀しています。あくまで私個人の意見です。参考にしていただいたり、意見を頂けると幸いです。

番外編 J1第15節 川崎フロンターレVS湘南ベルマーレを見て

 5月25日に、2019年の夏以来、約3年ぶりにスタジアムでJリーグを観戦してきました。

 ここ5年で毎年タイトルを獲得し圧倒的な強さを誇る王者、川崎フロンターレ(以下川崎)と、毎年残留争いはするものの、しぶとくJ1リーグで生き残る、湘南ベルマーレ(以下湘南)の神奈川ダービーでした。

 Jリーグは日頃からあまり見ないので、絶対王者の川崎が勝つんだろう、と思いながら等々力へ足を運びました。

 ところが結果は大違いで、湘南の圧勝でした。

 

 

 

 【川崎の配置と基本戦術】

 川崎のスタンスは例年通りと変わらず、選手をピッチ上に綺麗に配置し、ショートパス主体で攻めようとする。個人の "止める""蹴る"の技術はJでも飛び抜けていることは言わずもがなですね。まさにプレミアリーグの王者、マンチェスターシティを彷彿とさせる『配置で殴る』戦術をメインとします。

 

 

 【湘南の配置と基本戦術】

 3バック+ウイングバックで守りつつ、攻撃となると一気に多くの選手がボールを追い越し前線へ飛び出すカウンターを得意としこの戦術のことを『湘南スタイル』と呼んでいます。圧倒的な走力で攻守に渡りスプリントを繰り返す、非常にダイナミックな闘い方をします。

 

 【川崎の前半】

 ショートパスを主体にボールを動かしながら前進するいつもの攻撃を、湘南の効果的な前プレによって無効化されてしまう。中盤で奪われてショートカウンターを受け決定機を作られる場面も数回発生。サイドバックの山根選手や佐々木選手が多くボールを触る中、湘南がコンパクトにラインを保っている為、途中から左サイドバックの佐々木選手からから左ウイングの俊足マルシーニョ選手の背後をシンプルに狙う攻撃が増えた。結果的に決定機を2度作り、湘南を押し込むことも増えた。

 いつもの形で攻めることが出来ずフラストレーションが溜まった前半だった印象。

 →湘南がコンパクトにするなら後半も継続してシンプルに背後を狙う。また、2列目の脇阪選手や遠野選手が背後へスプリントをするよう指示できるかどうか。

 

 【湘南の前半】

 2トップから3バックまでの距離を短くしコンパクトな陣形を敷くことで、縦のスペースを潰しつつ、前の4人+アンカーで川崎の中盤三枚へのパスコースを消し、ウイングバックが川崎の両ウイング(家長選手とマルシーニョ選手)をケア。川崎の両サイドバックへ誘導し、そこにボールが入ると同時にプレスのスイッチが入る。

 《川崎のサイドバックにボールが入る瞬間》

 ①湘南の2トップは川崎のセンターバックへのリターンを消しつつ、アンカーをケア。

 ②湘南の2シャドーの近い方が川崎のサイドバックにプレスをかけ、湘南の逆側のシャドーはアンカーをケア。

 ③川崎の2シャドーに対しては湘南の1アンカーもしくは3バックの左右のストッパーが前進してケア。

 

 というように逆のサイドバックを完全に捨てつつ、内側にボールを入れさせないプレスのかけ方でした。最近ヨーロッパでも流行っている、『ボールを保持して主導権を握る』のではなく『ボールを持たせて主導権を握る』とはこのことだ、と言わんばかりの素晴らしい対策です。

 ただ、途中からは、コンパクトにしていることで発生する背後のスペースを川崎が察知し、単純な抜け出しを繰り返され、手を焼いてしまった印象。

 →コンパクトを継続するなら、2トップのスタートラインを下げることで、最終ラインも下がり、裏へのスペースを消すことが出来るが、奪ってショートカウンターではなく、ロングカウンターになってしまう。であれば、強気で前半と同じようにハイラインで継続かの2択。

 

 【川崎の後半】

 中盤の攻防で負けるなとしか言われなかったのか、球際やバトルの部分に関しての立ち上がりは良いものの、背後を徹底するわけでもなく、下から繋ごうとしていた川崎。結果自陣でボールを失ったところからコーナーキックを取られ開始5分で先制される。

 その後も、攻撃力に自信があるからか、下からボールを動かし続けるも前進できる確率があまりにも低すぎました。ウインガーも今までであれば、三苫選手、齋藤学選手、長谷川選手といたスピードとスキルを兼ね備えた選手が多く在籍していましたが、現在の川崎にはそれがありません。

 結果、湘南のショートカウンターで追加点を許し、苦し紛れの3バックでミラーゲーム(完全にマッチアップする形)気味に勝負を挑むも、急造フォーメーションが機能するわけもなく、結果的に大量4失点となりました。

 

 【湘南の後半】

 川崎のロングボールに臆すことなく、前半同様ハイラインのコンパクトで対峙した湘南の我慢勝ちでした。開始5分のセットプレーで先制し、気持ち的に有利に立つ。継続して統一されたプレスでボールを奪ってショートカウンターに繋げる。多くの選手がボールを追い越すスプリントを躊躇なく行うので、攻撃に厚みがあり、質とういうよりは数と勢いで川崎の守備を崩壊させた印象でした。

 

 【学んだこと】

 ①3バックは縦に早いサッカーをすること。

 後ろに人が多い分、ゆっくりとプレーしてしまいがちですが、以前解説した疑似カウンターのように、ボールを奪ったり、前の選手に入った際には、勢いをもって前に飛び出していくことこそが必要であること。特にウイングバックの上下スプリントが攻撃でも守備でも必要であること。

 

 ②相手が嫌がることは徹底的に行う。

 よく『自分達のサッカーをして勝ち切ろう』という指導者がいます。これを否定するわけではありませんが、自分たちのストロングポイントを研究してそこを消しにきている。更にそれをかいくぐってストロングを出せないのであれば違う手を考えるしかありません。

 今回も、川崎が湘南のハイラインでコンパクトな守備をかいくぐれるだけの技術を持ち合わせていれば、何かを変える必要はありませんでした。しかし、いつものプレーが上手くいかず、逆にいつもとは違うロングボール主体の攻撃のほうがチャンスを作れると分かったのであれば、そちらにシフトしてもよかったと思います。

 高校サッカーではより勝ちにこだわらなければいけないですし、その中でどのように自分のチームの色を出していくかが、指導者の腕の見せどころではないでしょうか。

 

 これを機に、Jリーグを現地で観戦する機会を増やしていければと思います。