長年、『Jユースと高体連はどちらが良い選手を輩出する?』ということが議論のテーマになっています。
実際、日本代表におけるJユース出身選手と高体連出身選手の割合はこのように推移しているそうです。
2002年 日韓ワールドカップ
Jユース 5人(21.7%)
高体連 18人(78.3%)
2006年 ドイツワールドカップ
Jユース 5人(21.7%)
高体連 18人(78.3%)
Jユース 4人(17.4%)
高体連 19人(82.6%)
2014年 ブラジルワールドカップ
Jユース 10人(43.5%)
高体連 13人(56.5%)
2018年 ロシアワールドカップ
Jユース 13人(48.2%)
高体連 14人(51.8%)
Jユース 14人(53.8%)
高体連 12人(46.2%)
ここ10年間でJユースが結果を出していることが伺えますし、現在日本代表で主力と言われている、冨安健洋選手、遠藤航選手、三笘薫選手たちはこぞってJユース出身です。
では高体連で選手が育たないのかというと、そうでもありません。鎌田大地選手は京都府の東山高校(ガンバ大阪ジュニアユース出身)、上田綺世選手は茨城県の鹿島学園(鹿島アントラーズノルテ出身)、前田大然選手は山梨県の山梨学院(川上FC 大阪府)、伊東純也選手は神奈川県の県立逗葉高校(横須賀シーガルス 神奈川県)というように、Jのジュニアユースからユースへ昇格できなかった選手だけでなく、街クラブから高体連へと進学した選手が日本代表まで駆け上がっています。
このように高体連からトップ選手へと駆け上がる選手は少なくありません。
埼玉県の昌平高校や大阪府の興国高校といった毎年プロ選手を輩出する高体連も増えてきています。
熊本県の大津高校や千葉県の市立船橋高校、群馬県の前橋育英高校のように強豪大学へ進学させそこからプロ選手へと駆け上がり活躍している選手も多く見受けられます。
Jユースは、環境面、チームで教えてもらえる内容面、チームメイトの質、といった全てにおいて整っていることは間違いありません。
先日、川崎フロンターレが新設したアカデミー専用の施設『Anker フロンタウン生田』には、全カテゴリー選手に対して個人ロッカーを用意したそうです。今までの日本では考えられない設備とまで言われています。
他にも、ユニフォーム、練習着、スパイク、ランニングシューズといった用具の提供もあることでしょう。
しかし、活躍している選手に対して焦点があたりがちですが、もちろん多くのユース選手はプロサッカー選手になれていないでしょう。
1学年に10~15名の選手を抱えているJユースからプロ内定が発表されるのは、多くて3~4人。プロ予備軍のはずなのに昇格選手が0人という年度が続くのも当たり前な状況です。
逆にJユースに上がれず高校サッカーへ進学してプロになった選手も多くいるでしょう。昨年度は以下の選手たちがプロ入りを勝ち取っています。
【22-23年シーズン J下部→高体連→プロ】
(川崎フロンターレJY出身)
(東京ヴェルディJY出身)
(ガンバ大阪JY出身)
(ガンバ大阪JY出身)
(サガン鳥栖JY出身※ユース昇格するも怪我の影響でプレーをほぼせず、高校2年時に移籍)
上記の選手以外にも強豪大学をみれば多くの高体連出身選手たちが進学しています。
その理由は一体なぜでしょうか?
もちろんその選手にポテンシャルがあったことに間違いはありません。
ハングリー精神や雑草魂が高体連で身につくなどということも聞いたことがあります。
現在、サガン鳥栖で活躍しパリオリンピックでの活躍が期待される西川潤選手は、横浜FマリノスJYに在籍し、ユース昇格の話を蹴って高体連の神奈川県の伝統校である桐光学園進学を選びました。
『桐光学園に行けば自分に足りないものを補える。ユースに上がる選択肢もありましたが、現状に甘えてしまっているような気がした。サッカーをする環境、自分に染み付いた雰囲気を変えたかった。うまく表現ができないのですが、このままだと自分が甘えてしまうように感じてしまったんです。僕の成長に必要なのは、厳しい環境でイチから取り組むことだったんです。』
とインタビューで話していたようです。
ですが、私個人的な意見としては、『経験値』だと思います。
Jユースに昇格した結果、1~2年生時はBチームで活動をする選手がほとんどだと思います。もちろん悪いことではありません。Bチームであろうと選手の質は高いでしょうし、対戦する相手のレベルも高いでしょう。しかし、それらはチームを背負って戦うわけではありません。
一方、高体連に進み、1、2年時からトップチームに入り強度の高いレベルでプレーをする。さらには早い段階から出場機会を得て、緊張感のあるなかでプレーする。つまりチームを背負って戦うということです。
この些細な差の蓄積が大きく明暗を分けることがあると見ていて感じます。
『ジュニアユースでは全然目立たなかったからそこまで期待してなかったけど、高体連で2年生から試合に出続けた結果、大化けしました。』
なんて話は特にJユースが群雄割拠する関東圏ではよく耳にします。
この考え方はジュニアユース選びにも通ずることがあると思います。必ずしもJのジュニアユース出身の選手が高体連で活躍するわけではありませんし、近年では、『町クラブのエース格を集めよう!』といってスカウトをしている高体連も増えています。
西川選手も高校1年時からインターハイと選手権出場は逃すも、関東プリンスリーグに出場。2年生時にはインターハイで全国準優勝。3年生では、インターハイ全国優勝を果たし、セレッソ大阪入団内定を勝ち取っています。
これが横浜Fマリノスユースに上がっていた場合、いくらU16日本代表に選ばれていても高3のユースの選手を差し置いて試合に出場する、という機会は圧倒的に少なかったことでしょう。しかし桐光学園に進学することで、1年時から桐光学園の栄光の10番(中村俊輔元選手、藤本淳吾元選手らが着用)を背負うという責任を背負ってプレーすることができました。結果的に横浜Fマリノスユースに昇格より成長することができたのかもしれません。
自分が選手、保護者であれば
『絶対Jユースに入る・昇格するんだ!』
『自分の息子はJユースに入れたい!』
と考えることが普通でしょう。私自身もそう思っていましたし、今でもそのように考えています。
ですが、高体連の指導者としては、高体連で出場機会を得るメリットもわかっています。
Jユースにはプライドを持って、結果だけでなく育成面でも高体連を凌駕し続けてもらいたいですし、高体連はJユースに追い付け追い越せで努力していく必要があると思います。
そしてその結果が、日本サッカーが世界で躍進していく鍵だと私は信じています。