育成年代において、どこまでを教えて、どこまでを縛って、どこまでを自由にするのかということは、古今東西での議論の対象ではないでしょうか。
明治大学出身の選手に話を聞いたところ、明治大学のボールトレーニングは対人のみで、1vs1、2vs2、3vs3だけで1時間以上かかることがざらにあるそうです。
考え方として、『ピッチに立つ11人が1vs1で負けなければ、試合に負けることはない。』
ということだそうです。
1学年13名前後のみの選りすぐりの選手が4年間対人を極めていくことを想像すると、11人以上が毎年プロ内定を勝ち取っていくことも頷けます。
他の関東1部リーグの選手に話を聞いても、チームとして決まったことをトレーニングするというよりかは対人で能力を高めることが圧倒的に優先されているようです。
では、高校年代に関してはどうでしょうか。
ここは完全にスタッフの考え方次第だと思います。
対人を強化することに焦点を当てた結果急成長する選手が出てくる可能性は大いにあるでしょう。
逆にチームとしてサッカーをするとなった場合は、しっかりとゲームモデルを伝え、集団の上に個を活かすことを大事にするべきでしょう。
ただ、このように話すチームやスタッフがいます。
『守備は戦術、攻撃は自由。守備はチームとして守らなければいけないが、攻撃に縛りを与えてしまうと発想力豊かな選手は生まれない。』
これだけは不正解だと感じます。
例えば、美術の授業を考えてみてください。
先生に「今学期の課題は絵を描くことです。ジャンルは自由。以上」
と言われたとします。
おそらく子供たちは
「絵具使う?鉛筆にする?版画でもいいかも。。。」と迷うでしょう。
「題材は、風景?抽象画?人物?」
「俺はインターネットでピンとくる作品探そう」「私は教科書から探そう」「僕は外の風景探しにいこう」
それぞれがバラバラなことをバラバラな発想で取り組みだします。
課題が進んでいくと生徒に対して先生は、「ここはこうしたほうがいいよ!」とアドバイスを伝えます。
しかし、そのアドバイスの先にあるイメージははたして子供と先生は同じでしょうか?
つまり、具体的に
「絵具を使って、この教室の窓から見える風景を描いてください」と言われると子供たちは共通の理解が得られ、進んでいく方向が分かりやすく、また先生からアドバイスを受けたときに同じヴィジョンを共有しやすいでしょう。
サッカーも同じです。
これは現在バイエルン・ミュンヘンで監督をしている、トーマス・トゥヘル監督がインタビューで話していた1部です。
『オーケストラのように誰もが役割を持つ必要があります。若い有望な選手にも伝えた内容になりますが、ここでは攻撃、ここは守備をする。パス・ドリブルの瞬間・プレーする場所、これらを明確にすることで何をすべきかイマジネーションを持てます。ただ選手を送り出し、直感だけでプレーさせるのはかなり厳しいと思います。』
『重要なのは私たちは選手たちの想像性を止めないことです。むしろ逆です。しかし、場所・スペース・タイミングは守ってもらいます。そこからは、彼らが解決していきます。私は決められたスペース内ではネイマールに対して「こうしろ」とは言いません。なぜなら彼自身が夢にも思わない解決をしてくれるからです。』
また、現在スペイン代表で監督をしているルイス・エンリケ監督もこのように話していました。
『監督としてベースにしてはいけないことがある。選手にこのような解決策をあ与えてはいけない。メッシ・イニエスタ・ネイマールにボールを預けて、あとは4人抜いてもらう。これはダメだ。これは選手が与えてくれる+αの部分だ。
我々がやるべきところはボールを保持してゲームをコントロールしながら、そのような選手が何回も現れるようにすること、これがチームプレーだ。そのあと彼らが1人、2人抜いてくれるならそれに越したことはない。
そこからフィニッシュの部分はルイス・スアレスに教えれることなんてほとんどない。そこはもう動きだけだ。彼がどこにいるべきかを言うことはできるけど、最後はその人の技術だからね。
こちらは、世界ナンバー1監督といっても過言ではないマンチェスターシティのグアルディオラ監督の言葉です。
『プレーしてプレーしてプレーをすること。これが全てです。たくさん間違ってほしいです。日中も夜もプレー(遊ぶ)してほしいです。』
『彼らが自分たちがどのようにプレーするかを理解するために、アクションのアドバイスを与えることは大事です。そして出来る限り早くに、戦術を教授することにトライすること。プレーを理解し、なぜそれが起きているのかを理解させるのです。これこそが我々がしなくてはならないことです。』
以前、Jリーグや大学サッカーで監督をされていた方は
『プレーモデル(チームとしての戦い方のルール)は100~150個考え、それを選手たちに伝えたが、甘かった。だってグアルディオラは500個近くあるんだよ。』
と笑いながら話していました。
そこまで厳格化しても、高校生の頭ではパンクしてしまうでしょうし、伝え方にはさ
じ加減が必要でしょう。
大事なことは、
『攻撃は自由』と手放すのではなく、チームにどんな特徴をもった選手がいるのかを考え、そこから彼らの特徴が活きる戦い方を考え、チームとして原点回帰ができるような物(戦術)を伝える、ことです。
私自身、小学生、中学生の年代を教えたことがないので、正解はわかりませんが
小学生⇒個人の技術
中学生⇒個人の技術、簡単なチームでの動き
高校生⇒チームとして戦う、その上で小中で培った技術を伸ばす
大学生⇒チームで戦える状態からさらに個を強くする
という流れが私が至った結論です。
小学生~中学生の入団までにおいて、強いチームに入るにはセレクションがマストです。そしてセレクションでコーチが見たいのは、個の力です。ほかの選手と連動して動けることは頭がよくないとできないことですが、セレクションうけする能力ではありません。
「この子は黒子どしてチームに必要なんです。」という子より、『目に見える結果』、例えばドリブルが上手い、点を決める、1vs1で抜かれない。が必要不可欠です。
中学生でチームが決まってからも、高校の強豪チームに入るには個の部分がフォーカスされます。ドリブルが上手い、点を決める、1vs1で抜かれない。はもちろん、選抜に入っている。といった経歴も注目項目です。
高校生になると、強豪大学に入るには、基本的に戦績が必要になります。
いくら個が秀でていても、全国大会に出ていない、国体や代表に入っていないと、附属高校でないかぎりは、東京国際大学や日本体育大学といった部員の枠が絞られていない大学に入学するしか道がないということが多いです。
大学生では、再度個の力を磨き、一握りの選手がプロへ一本釣りで入団していく。
この力もチームとして戦うことも両立すべきです。ですが、その年代においてフォーカスを充てるべき部分は異なります。
とくにJリーグの下部組織のように小さいころから手元において育てあげれるのであれば幼いころから、両立することは可能ですが、ほとんどがそうはいきません。
であれば、この流れで成長していくことがいいのではないかと考えますし、私自身も振り返ると同様の流れでした。
高校サッカーを教えている立場の人間としては、小中で個の力を遺憾なく伸ばしてもらえるとありがたいですが、、、
また、異なる考え方があれば是非教えてもらえればと思います。