全国常連コーチによる高校サッカー戦術

高校サッカーまたはそれ以下の年代で使える戦術、原則について深堀しています。あくまで私個人の意見です。参考にしていただいたり、意見を頂けると幸いです。

距離感の適切な距離は?

 「距離感がいい」

 

 サッカーの試合をテレビで見ているとよく解説者が話しているのを耳にします。

 試合会場でも、指導者の方が自チームの選手に対して

 「もっと距離感を縮めよう」

 「今日は距離感が遠い」

 と話しているのをよく耳にします。

 

 では、最適な距離感とはどのくらいの距離を表すのでしょうか?

 

 

 

 私が考える最適な距離感は

 

 パスミスが起こらないor起こりづらい最長の距離

 

 です。

 うちの高校に入ってくる選手達は、中学生時代に

 「幅、高さ、深さを取ってピッチを広く使ってサッカーをしましょう」

 と教わって育っています。

 おそらく、幅、高さ、深さを習わないジュニアユースはないのではないでしょうか。私もジュニアユースで幅、深さ、高さを叩き込まれた部類の人間でした。

 ですが、ピッチを広く使った結果、パスミスが発生していては本末転倒です。

 

 ある日、毎回無意識に幅、高さ、深さをとる選手たちに対して、こんな質問を問いかけてみました。

 

 「幅、高さ、深さを取るメリットとデメリットを教えて?」

 

 すると、選手達は

 

 「メリットは相手と距離が取れてプレー時間が確保できることです。デメリットはわからないです。」

 

 と答えました。

 まぁそこまで教えませんよね。私もデメリットの話しは中学生時代聞いたことがありませんでした。そもそもデメリットを考え出したのは私もつい数年前ですし。

 

 皆さんはデメリットは何だと考えますか?

 

 私が考える、幅、高さ、深さを取るデメリットは

 

 『ボールが自分のところに届くのに時間がかかる』

 

 ということです。

 確かに敵とは距離が離れましたが、その代わり、味方との距離も離れてしまっています。よって自分の位置にボールが到達するのも時間がかかってしまうということです。ファン・ダイク選手並みに早いボールを蹴れる選手がいれば別ですが、高校生ではそうもいきません。中学生や小学生ともなればよりボールの移動(パス)に時間がかかるでしょう。

 

 では逆に幅、深さ、高さを取らないメリット、デメリットは何でしょうか?

 デメリットは、

 『敵との距離が近づいてしまうこと』

 ですよね。

 逆のことをしてるわけですから、当たり前ですよね。

 

 ではメリットは?

 

 それは

 『自分のところに早くボールがくる。』

 です。

 

 ここからは考え方の問題です。

 

 サッカーはミスを前提としたスポーツです。

 球体という不確定要素が高いものを、脚という人間の身体の中で一番脳から遠く神経が通いづらい場所でボールを扱い、さらに敵味方が1つのコートに入り乱れる。冷静に考えただけでも恐ろしく難しいスポーツじゃないですか?

 テニスは敵と絶対に接触しません。野球も自分のプレーエリアは基本的に確保されています。バスケットボールは手でボールを扱えます。

 

 本題に戻りましょう。

 そんな難しい競技であるサッカーでは、

 パスの距離が遠くなれば遠くなるほど、ミスの可能性が高くなります。

 また、

 パスのスピードを上げようとすればするほど、ミスの可能性が高くなります。

 

 つまり、敵から離れて距離をとっていたつもりが、知らず知らずのうちに自分たちの首を絞めているのです。

 

 もちろん、J下部のように入団した選手全員が、正確な技術を持っていれば別でしょう。実際、横浜Fマリノスユースと試合をさせてもらった時には、基本に忠実な、幅、高さ、深さをめいっぱい活用してボールを動かしてきました。

 私が想定している距離よりはるかに長い距離を早いパススピードで正確に各選手が蹴るわけですから、強いわけです。

 

 ですが、高校サッカーとなるとそうもいきません。

 J下部でユースに上がるか上がらないかのような選手が来てくれるチームであっても、正確に速いボールを11人が蹴れることはまずないでしょう。

 

 そこで、私はうちの選手たちがミスをしない距離はどれくらいだろうと考え、それは10~15mが最長だと判断しました。

 

 そこからは選手が10~15mの距離感でプレーする練習を重ねていった結果、試合中であっても他のチームよりかなり近い距離で選手たちはプレーするようになりました。

 

 とても狭いエリアに多くの選手がいるので、パスコースが多く敵もパスコースを絞り切れません。その結果局面を打開し、一気にゴール前へと人とボールがなだれ込むようなサッカーへと変化していきました。

 

 UEFAのA級を持っているコーチに見てもらった際には、

 「ボールに人がたくさん集まってブラジルのサッカーみたいで面白い。」

 と評価していただきました。

 

 逆に、この選手間の10~15m距離が離れている日は、ボールが動かず、攻め手を欠く試合になってしまい、ハーフタイムで修正をかけます。

 

 チームによって技術力や身体能力は異なるので、一概に距離感を近づけるべきだというわけではありません。

 ですが、

『ボールを大事に後方から繋いで攻めたい』と話すわりにミスが多く発生していないでしょうか。

 

 私は、幅、高さ、深さをとるサッカーは、相手の身体能力が上がれば限界があると考えます。極端な話、レアルマドリードと試合をすれば、いくら敵と離れていても、ヴィニシウス・ジュニオール選手のスプリントでボールの移動中に詰められ奪われてしまうでしょう。いくらパスコースを絞れないようにしたとしても、フェデリコ・バルベルデ選手のアプローチスピードに圧を感じてボールを失うでしょう。

 では、どうすればいいか。

 身体能力が関係ない土俵にもっていけばいい。それは近い距離でボールを動かすことです。さらに距離が近いということは、サポートも早くできますよね。

 つまり相手のフィジカル能力を無効にすることができるわけです。

 

 もちろん、その代わりに求められるのは、狭いエリアでの『止める・蹴る』です。

 (『止める・蹴る』ことについては以前の記事で書いたので気になる方はご一読ください)

soccer-tactics.hatenablog.com

 しかし、私が考える『止める・蹴る』ができれば、青森山田であろうが、明秀日立であろうが倒すことができると私は考えます。

 

 なにか意見がありましたら、遠慮なく教えていただければ嬉しいです。