欧州サッカーを見ているとよく耳にするのが「偽」という単語です。
これまでに皆さんはどんな「偽」を聞いてきましたか?
「偽9番」はかつてスペインのFCバルセロナをグアルディオラ監督が率いていた際に使われていた単語で、4-1-4-1のFWの選手(9番)が頂点にい続けるのではなく、中盤に降りてプレーすることで中盤の枚数を増やし、数的優位を形成したものでした。その際には、ただでさえシャビ・エルナンデス元選手やアンドレス・イニエスタ選手といった強烈なタレントが構成している中盤に、若きリオネル・メッシを偽9番として起用するものですから、敵チームからするとたまったものではありません。中盤を蹂躙され、弄ばれていたように感じたことでしょう。
そして次に大流行したのが「偽サイドバック」です。こちらもバイエルン・ミュンヘンを率いたグアルディオラ監督が、当時左サイドバックとしてプレーしていたダビド・アラバ選手をサイドバックの位置からボランチへと移行する戦術をとっていました。こちらは後に横浜Fマリノスを率いたアンジ・ポステゴグルー監督によって日本でもよく見られました。目的としてはサイドバックとしてサイドの低い位置にいるであろう選手を、中盤に移動することにより、数的優位を図る目的でした。
最後に現在マンチェスターシティで行われているのが「偽センターバック」です。こちらもグアルディオラ監督が開発しており、センターバックに配置されるジョン・ストーンズ選手がボランチの脇まで上がり、中盤に数的優位をもたらしています。
おそらくトップ下というポジションが発生したのも、4-4-2から数的優位を作るためにFWとMFの間に一人が位置取りすることで数的優位を形成することから派生したものではないでしょうか。
つまり大事なことは
「数的優位を形成すること」
ということになります。
さて、今日ここで提言したいのは、高校年代において最適な「偽〇〇」は何か?ということの一つの答えです。
もちろん一つの答えですので、どのチームがこれをやっても必ず成功するわけではありません。自チームの能力、敵チームとの能力差を踏まえて出来る、出来ないは分かれます。ただ、成功する確率としては高いものをお伝えしていきたいと思います。
私が思うベストな「偽」は
『偽サイドハーフ』
です。
「そんなものは聞いたことがない!」と思われますよね。安心してください。私が勝手に名前を付けました。
では、この『偽サイドハーフ』とはどういった構造でしょうか。
それは、『攻撃時に片方のサイドハーフが持ち場を離れ中盤に参加、ダブルボランチ、2シャドーのボックスを中盤で形成したり、2トップに入り、ダブルボランチ、トップ下、2トップを形成する』です。
です。
中盤に数的優位をもたらすことでいえば、他の「偽○○」となんら変わりはありません。
では、なぜサイドハーフを選ぶのかを説明していきます。
まず「偽9番」にするデメリットです。
それは、背後に抜ける選手が両ウイング(サイドハーフ)の選手になることが増えることです。
日本代表の三苫薫選手が所属するブライトン&ホーヴ・アルビオンFCが似たような構造を使っています。頂点の選手たちが中盤のボール回しに参加することで、敵センターバックをつり出し、空いた中央のスペースへ両サイドにいる三苫選手らサイドハーフが一気に走りこむシーンは何度も見ているのではないでしょうか。
ただ、高校サッカーになると長距離のロングパスはミスの可能性がより大きくなってしまいます。また、適切なタイミングでスプリントをし、かつスピードがあるというサイドハーフがいる高校のチームはおそらく少ないでしょう。
こういったことから、「偽9番」は選択肢から外しました。
続いて「偽サイドバック」です。
こちらは以前、記事でも紹介しましたが、現代の高校サッカーではよく見られる現象です。プレミアリーグに所属する横浜Fマリノスユースも状況に応じてサイドバックが内側を取るという、トップチーム顔負けの戦術を採用しています。
高確率で高い位置へボールを運べる「偽サイドバック」でしたので、実際に昨年度、今年度の途中まで取り入れていました。しかし、大きなデメリットを抱えており悩みの種でした。
それは、ほとんどの確率で外の高い位置にボールが進むことです。
自チームのサイドバックが内側を取ることでたしかに中盤の枚数は増えますが対峙する敵チームのサイドハーフが絞らないわけがありません。たしかにセンターバックからサイドハーフへボールを素早く進めることは可能になりましたが、そこでボールを受けるサイドハーフの選手が内側にボールを戻さない限り、そのまま外側で前進していくことになります。敵からすれば、内側から外に押し出す定石通りの守備をすれば問題ないです。
たしかに、敵の能力が自分たちと同じかそれ以下であれば、サイドから攻撃をしてもチャンスは作れると思います。しかし、自分たち以上の身体能力や対人能力があったときに、攻撃のスタートがサイドというのはあまりに不利すぎると感じました。進める方向もサイドだと180度しかありませんからね。
最後に「偽センターバック」です。
実はこちらも自チームにおいて試してみましたし、たしかにボールが動いて剥がせることもわかりました。ただ、そこには最大の難点があります。
それはズバリ、
です。当たり前のことを言ってますが、センターバックがボランチに移行する難易度は計り知れません。ボランチ出身の選手をセンターバックへ落として、ビルドアップの循環を狙うことはありますが、センターバックをボランチに出すことは聞いたことがほとんどありません。
そういった意味で、ボランチ、センターバックを高い水準でこなせる選手がいれば、その選手をセンターバックに置いて、中盤を出入りすればいい案だとは思います。
では、最後になぜ「偽サイドハーフ」を選んだのかをお伝えします。
原則として、ショートパス主体のチーム、中央から前進をしたい、が前提です。
ショートパス主体なので、選手間の距離が空きすぎてしまうと、関係性が崩れてしまいます。どの選手たちもなるべく均等に配置をとります。
そのなかで、「偽サイドバック」で話したように、敵サイドハーフが中央を締めるということは、外から進んでいくことになってしまいます。裏を返せば、敵サイドハーフが絞らなければ中央へのパスコースは空いていることになります。そのため自チームのサイドバックはある程度幅と高さを取る必要があります。そうすることで敵サイドハーフに外を意識させ完全に絞れないようにしていきます。
次に中盤での数的優位の形成です。オーソドックスな4-4-2や4-1-4-1、4-2-3-1とありますが中央だけ切り取ってみましょう。
敵は中央に2-2-2、2-1-2-1、2-2-1-1といった形で6人が配置されています。そこに対して自チームも2-2-1-1ですがそこにサイドハーフが完全に参加することで、2-2-2-1や2-2-1-2となり7vs6と考えられます。さらにはゴールキーパーがビルドアップに参加すれば8vs6となり2の数的優位が与えられます。
その結果、中央で前進が可能となり、ハーフラインを超した時に中央からスタートできる確率が格段にあがります。
もちろんスキップパスやロングボールで飛ばすパスを加えることで敵に的を絞らせないことも大事ですが、ひたすら中央で数的優位を作り続けるこの配置を自チームで実演してみたところ、プレミアリーグ、プリンスリーグのチームにも通用し、高い確率で中央からの崩しが発生しました。
今年の夏、川崎フロンターレのアカデミーコーチと話しをさせていただいた際にこんなことをおっしゃっていました。
「たしかに、偽サイドバックとか偽センターバックとか3バックとか4バックとか、嚙み合わせを悪くすることで敵のプレスを解消できることっていくらでもあるんだよね。でもそれを大人が提示するんじゃなくて、子供たちが自発的に『今日の相手をこうだから、ここにポジション取ったほうがいいかな?』とか『ここに入ったら相手がどうなるかな?』とか自分たちで考えてほしくて、その結果が偽サイドバックとか偽センターバックになったら面白いよね。大人が考えてた発想を超えてきて、『おー!そんなこともありか!』とか『ちょっとそれはやりすぎじゃない?』とか意外と出てくるんだよ。とにかく、自分たちで毎試合ごとに考えて答えを見つけてほしいんだよね。」
さすがはプレミアリーグで昨年度優勝、今年度も優勝争いを繰り広げているチームは求めている質が違うなと思った会話でした。
これは究極の目標だと思いますが、いきなり自分、チームで考えましょうは難しいと思います。
すべてを教える必要はないですが、敵全体のプレスの流れを把握したときに、全員が共通理解を持ってポジションをとりプレーできるように、引き出しを伝えておくことも一つではないでしょうか。
今日はそのうちの一つ『偽サイドハーフ』について記してみました。
他にも面白いアイディアがあればぜひ教えてください。