全国常連コーチによる高校サッカー戦術

高校サッカーまたはそれ以下の年代で使える戦術、原則について深堀しています。あくまで私個人の意見です。参考にしていただいたり、意見を頂けると幸いです。

可変の原則と考え方

 

 現在、様々なチームが様々な方法でビルドアップをしています。

 プレミアリーグ絶対王者であるマンチェスターシティはもちろんですが、日本代表の三苫薫選手が所属するブライトン&ホーヴ・アルビオンFCやスペインのラリーガで今シーズンの台風の目となったジローナFC、日本で一時代を築いた川崎フロンターレ、といったように、それぞれがそれぞれの方法で後方からゴール前までボールを運ぶ仕組みを構築しています。

 それらのチームに共通して言えることは、可変システムを導入していることです。

 以前の記事にも書いたように、偽サイドバックや偽センターバック、偽9番といったように、初期位置から選手の配置を変化させることで、数的優位を形成することを目的としています。

soccer-tactics.hatenablog.com

 

 私も、自分のチームで可変システムを昨年から導入していますが、常に同じ形にしているわけではなく、敵の守備ポイントを把握したうえで、可変するよう選手たちに促しています。

 

 そこで、可変をする上での原則や考え方を今日は書いてみようと思います。

 (上の記事では、昨年度実際に取り組んだ可変の仕組みを記していますので、興味がありましたら合わせてご一読ください。)

 

 

 

 まず、一番最初に考えることは、

『可変をする必要が本当にあるのかないのかを見極める』ことが必要です。

 可変=数的優位の形成です。

 つまり前へ進む上で、あるラインを突破したいと考えたときに、元の人数で大丈夫か?

 ということを考えます。

 

 例えば、敵の2トップに対して2人のセンターバックでボールを前進させることができるのであれば、そこに数的優位を形成する必要はないです。

 ですが、敵のプレスが上手くハマってしまい、前進が出来ない場合、そのまま放置していると、ボールを奪われるリスクが高くなりますし、意図していないロングボールが増えてしまう可能性があります。

 であれば、サイドバックの1人をズラしたり、ボランチを1枚落として、3バックの形を作ってビルドアップをチャレンジすることが有効とされています。

 3バックの中央に入った選手が敵2トップの間を突破しようとすると、もしくはパスを通そうとすると、2人は間の距離を縮めなければなりません。そうすると、左右の選手がフリーになって前に進みやすくなるという仕組みです。

 

 ただし、デメリットがあることも必ず把握しておきましょう。

 それは受け手(パスを貰う人)の人数が単純に減ってしまう、ということです。

 その結果、サポートが少し遅くなったり、距離感が遠くなったりする可能性があるので、受け手の場所の修正も必要となります。

 

 次に考えることは、敵が狙っている守備を無効化できるような配置を形成することです。

 高校サッカーにおいては、攻撃面で組織化をしているチームはまだまだ少なく、パターン攻撃や選手の個の能力に頼った攻撃をするチームが圧倒的に多いですが、守備面では昔から組織的に動くチームが多いです。

 今年のJリーグで1位の町田ゼルビアが証明していますが、サボらずタイトな4-4-2を構築すれば、日本国内では多少の能力差はカバー出来てしまいます。1人で守備にバグを発生させるリオネル•メッシ選手やネイマール選手のような強烈な個を持っている選手はそうそういないですからね。

 つまり、どのチームも狙いを持って守備をしてくるので、その狙いをさせないような配置•ポジションにしてあげればいいわけです。

 

 具体的に、私が伝えているのは、

 「敵に2択を突きつけろ」です。

 

 オールコートマンツーマンディフェンスをするチーム以外は、敵選手達は基本的に右と左、前と後ろ、両方を狙えるカバーできるように構えます。レベルが上がれば上がるほど、よりその感覚が研ぎ澄まされます。

 逆に言えば、その感覚を使ってあげればよいのです。敵に対して、自分ともう1人が左右に立つことで、的を絞ることが出来ません。

 また、それが前後の関係でも同様です。

 可変でこのフォーメーションに変化する。というパターンではなく、敵に対して、どこにポジションを取るか、という考え方です。

 それができれば、ビルドアップも自由自在、掴みどころのない攻撃を繰り出せるようになるわけです。

 2年前、神奈川県のインターハイを制した、湘南工科大附属高校は、この

 『敵に2択を突きつける』

 ことができる集団でした。一人一人のテクニックがありながら、チームとして右と左、前と後ろ、背後と足元のパスコースを常に作り続けることで、全国大会でも当時プレミアリーグ所属の履正社高校を手玉にとっていましたし、私も参考にさせてもらいました。

 

 そして最後は、ビルドアップが目的にならないことです。

 「可変をする、ポジションを移動する」

 と立ち位置ばかり気にしていると、いつしか全員がボールに向かってプレーしていることになってしまいがちです。

 ですが、本来の目的はゴールを奪うこと、即ちシュートを打つことです。

 であれば、常に裏を狙い続けることは欠かせない動きです。

 それが1番前の選手だけではなく2列目、3列目の選手が狙う。

 その空いたスペースに違う選手が入ってくる。

 クルクル、クルクルいろんな選手が動いていい場所に立ち続ける。私は、これを今年のチームの可変と位置付けています。

 

 サッカーはこれが正解というものはありません。5レーン理論で動けば可変はしなくてもいいのかもしれませんし、伝統校の静岡学園や昨年度選手権準優勝の近江高校のように、ドリブル主体でゲームを構築することも可能ですし、それがチームの「スタイル」です。

 皆さんはどのような「スタイル」を確立していますか??

 何か面白い考え方や動きがあればぜひ教えてください。