私が小学校2年生の頃、『オン・ザ・ボール』と『オフ・ザ・ボール』という言葉を初めて聞きました。当時はどこまで説明してくれたかは記憶にありませんが、
自分がボールを持っている状態=『オン・ザ・ボール』
自分がボールを持っていない状態=『オフ・ザ・ボール』
という概念を教えてもらったことだけは確かに覚えています。
おそらく皆さんも、早い段階からこれらの言葉を知っているのではないでしょうか。
厳密な話をすると、"on"という英単語は単語は"接している"ことを表す単語で、"off" という英単語は"離れている"ことを表す単語なので、人に対してボールが付いているか付いていないか、ということだそうです。
小学生時代から聞きなれた言葉なので、特に意識をしている人はいないと思います。
ですが、なぜ、わざわざ、『ボールを持っているとき』と『ボールを持っていない時』の区別すのでしょうか?
その理由は、以外にも他競技の指導者の言葉からヒントを得ることが出来ました。
その競技とは、『バスケットボール』です。
バスケットボールとサッカーは競技として非常に似た要素を多く持っていると言われています。
そして、実はバスケットボールにも、"on ball (オン・ボール)" "off ball (オフ・ボール)"という用語があり、それらはサッカーと同様に、ボールを持っているか持っていないかという違いを表しているそうです。
今回は、NBA(アメリカのプロバスケットボールリーグ)のオクラホマシティ・サンダーで5年間指揮をとり、2020年からはシカゴ・ブルズでヘッドコーチ(監督)を務めているビリー・ドノバンさんが話していた、『オフ・ボールについての重要性』を説いた話を紹介したいと思います。
ある選手が38分(12分×4ピリオドの試合)出場し、11本打ったシュートに対してフィールドゴール(フリースロー以外)が2本だったそうです。
彼は良いプレーが出来なかったこと、フィールドゴールが2/11だったことに落ち込んでいました。
そこでビリー監督は彼にこう尋ねました。
「君は昨日試合で何本シュートを外したんだ?」
選手は、「9本です。」と、答えました。
すると、ビリー監督は、
「君がシュートを打つのにかかる時間はどれくらいだ?」と尋ねました。
選手は、少し困惑した後、
「1秒くらいだ」 と、答えました。
ビリー監督は、
「出場時間は何分だった?」と尋ねます。
選手は、「38分です。」と答えました。
「つまりこういうことか、君はその9秒間で、残りの37分51秒も悪いプレーだったと考えているのか?」
「たった1つのボールでスポーツをしていると、バスケットボールの95%は自分がボールを持っていない状態でのプレーなんだ。選手の多くがその5%に囚われすぎて、残りの95%に集中できていない。シュートが入るか入らないかの5%に感情を大きく左右されてしまっている。シュートが入るか入らないかは浮き沈みがあるが、自分がコントロールできるものは95%の中にあるんだ。それらを寄り良くするほうに意識を持っていこう。」
これは、サッカーにも似たようなことが言えるのではないでしょうか。
もちろん、ボールを持っているときにミスがないことは重要です。
先日のユーロ2024では、今大会で現役引退を発表したドイツ代表のトニ・クロース選手のパスが102本中101本を成功させたことで、パス成功率が99%というデータが出ていました。
しかし、サッカーはミスを前提としたスポーツです。
パスミス、シュートミス、ドリブルミス、トラップミスということが発生します。敵はボールを奪うことを目的としているわけですから、ボールホルダーに対してプレッシャーをかけるわけですから、ミスが発生することは想定内でしょう。
しかし、ボールを持っていない選手はプレスから解放されており、自由な身です。その選手たちがいかに『良い場所』で『良い体の向き』で『良いタイミング』でボールを受ける準備ができるかが大事になってくるわけです。
これらの『良い場所』『良い体の向き』『良いタイミング』は別の記事で紹介しているので、併せてご一読ください。
相手に影響を与えられしまう『オン・ザ・ボール』は、自分自身だけで、かつ一長一短で改善できるものではありません。
しかし、相手から影響をうけない『オフ・ザ・ボール』は、自分自身で考えることで質を上げることは可能です。
そして『オフ・ザ・ボール』の質を上げることが、『オン・ザ・ボール』の質を上げることに繋げることもできるわけです。
話していることは、至極当然のことですし
「当たり前だろ!」と思われるかもしれませんが
ここを意識してプレー出来るか、出来ないかで、『オフ・ザ・ボール』時への考え方を大きく変えることが出来ると思います。
そして、そこを変えることが、自分のボールを持った時により力を発揮できることに繋がるわけです。
是非、皆さんもこれらを意識して選手に伝えたり、自分がプレーするようにしてみてはどうでしょうか?